スイスの医療と保険で損しないための必須ポイント5つ

スイス

スイスは「世界最高水準の医療」と評価される一方で、医療費や保険料の高さでも知られています。海外移住を考える日本人にとって、ビザや住居と同じくらい重要なのが、医療・保険制度への理解です。この記事では、スイスの強制基礎健康保険(LAMal)の仕組みや保険料、自己負担、加入手続きに加え、歯科やメンタルヘルスなどカバーされにくい分野、旅行者向け保険、生活費シミュレーションまでを整理します。日本との違いを踏まえ、「実際にどれくらいかかるか」「どこまで備えるべきか」を具体的にイメージしやすい内容を目指します。

スイスの医療制度の全体像:世界トップクラスの水準と高コストの実態

スイスの医療制度の全体像:世界トップクラスの水準と高コストの実態

スイス医療が「世界最高水準」と呼ばれる理由

スイスの医療は、国際的な統計で常に「世界最高水準」とされています。OECD『Health at a Glance 2023』によると、スイスの平均寿命は83.9歳で、OECD加盟国の中でも最上位グループに入ります。自己申告による健康状態が「良好以上」と答える人の割合は80%超と報告されています(OECD Health at a Glance 2023)。長寿と高い健康満足度は、医療アクセスとケアの質の高さを裏付ける数字です。

スイス連邦政府も、自国の医療システムを「高品質だが費用の高い制度」と位置づけています。連邦内務省保健局(FOPH)は公式サイトで、

“Switzerland’s health care system is considered to be one of the best in the world, but it is also one of the most expensive.”
(スイスの医療制度は世界で最も優れたものの一つと見なされているが、同時に最も高コストな制度の一つでもある)

と説明し、質とコストの両方が特徴であると認めています(FOPH, The Swiss healthcare system)。この「高品質・高コスト」をどう受け止めるかが、移住検討者にとって重要な論点になります。

医療インフラ:病院・医師数・設備の充実度

スイスは人口約890万人の小国ですが、人口規模に対して病院数・ベッド数・医師数が手厚い国です。OECDによれば、人口1,000人あたりの医師数は4.5人(2022年時点)で、OECD平均の3.7人を上回ります(OECD, Health at a Glance 2023)。同報告書では、急性期ケア病床についても「人口当たりの病床数はOECD平均をやや上回る」とされ、過不足ないキャパシティを維持していると読み取れます。

スイス連邦統計局(FSO)の医療統計は、国内の病院数と専門クリニック網の広がりを示し、

“The Swiss hospital landscape is characterised by a dense network of acute care hospitals and specialised clinics.”
(スイスの病院事情は、急性期病院と専門クリニックの緻密なネットワークに特徴づけられる)

と述べています(FSO, Hospitals and clinics statistics)。大学病院、カントン立病院、民間病院、専門クリニックが役割分担し、地域ごとに高度医療へアクセスしやすい構造になっています。

OECDは医療機器についても、人口100万人あたりのMRI装置・CTスキャナ数がOECD平均より多いと報告しています(OECD, Health at a Glance 2023 – diagnostic technologies)。画像診断機器の充実により、がんや心疾患などの早期発見・早期治療がしやすい環境です。

インフラが充実する一方で、医療費総額は高水準です。世界銀行のデータでは、2020年のスイスの一人当たり医療費は約8,049米ドルで、米国に次ぐ世界トップクラスです(World Bank, Current health expenditure per capita, Switzerland)。スイス政府も、国民医療費の対GDP比が11%超となり、「長期的な持続可能性が政策課題」と認めています(FOPH, Costs and financing of the health care system)。

日本の医療制度との根本的な違い

移住検討者にとって重要なのは、「日本の感覚のまま考えると大きなギャップが生じる」という点です。日本の厚生労働省は、自国の医療保険制度について、

「日本の公的医療保険制度は、国民皆保険を基本とし、医療保険者が保険料と公費を財源として給付を行う社会保険方式である」

と説明し(厚生労働省『医療保険制度の概要』)、事業主・被用者・国・自治体が費用を分担する社会保険方式を採用しています。これに対し、スイスの医療保険は思想そのものが異なります。

スイス連邦保健局(FOPH)は、基本医療保険制度(KVG/LAMal)について、

“Health insurance is mandatory for all persons residing in Switzerland. Basic health insurance is provided by competing private insurers under public regulation.”
(スイスに居住するすべての人に医療保険加入が義務付けられており、基本医療保険は、公的な規制の下で競合する民間保険会社によって提供される)

と定義しています(FOPH, Compulsory health insurance)。つまり、

  • 加入義務は日本の国民皆保険と同様
  • 運営主体は民間保険会社
  • 政府は保障内容の最低ラインとルールのみを設定

という「民間保険主体+強制加入」のモデルです。ここが日本との根本的な違いです。

また、OECDはスイスの医療費構造について、家計の自己負担(out-of-pocket payments)の比率がOECD平均より高いと指摘しています(OECD, Health at a Glance 2023 – financial protection)。高額な自己負担や免責額(フランチャイズ)が家計への負担要因になっています。日本の「3割負担+高額療養費制度」という感覚とは違い、

  • 毎月の保険料自体が高い
  • 年間の自己負担上限(フランチャイズ+自己負担率)も高め
  • その分、医師・病院・治療の選択自由度が高い

という「自由度とコストを天秤にかける」発想が求められます。

スイス連邦保健局は制度全体について、

“The Swiss health system is based on the principles of individual responsibility, freedom of choice and solidarity.”
(スイスの医療制度は、個人の責任、選択の自由、そして連帯という原則に基づいている)

と説明しています(FOPH, The Swiss healthcare system)。日本のように「皆で負担を広く分け合う」モデルに慣れていると、スイスでは「個人の選択と負担」が前面に出る点を理解しておく必要があります。ここを押さえることが、移住後の医療・保険プランニングの出発点になります。

スイスの強制基礎健康保険(LAMal)の仕組みと加入義務

スイスの強制基礎健康保険(LAMal)の仕組みと加入義務

LAMalとは何か:連邦健康保険法の基本ルール

スイスでよく言われる「LAMal(ラマル)」は保険商品名ではなく、医療保険制度を定める連邦法(Loi fédérale sur l’assurance‑maladie)の略称です。1994年に採択され、1996年に施行されました。この法律は、

“compulsory basic health insurance for all persons living in Switzerland”
(スイスに住むすべての人への強制的な基礎健康保険)

として制度を位置づけています(FOPH, Health Insurance)。

スイス連邦保健局(FOPH)は、LAMalに基づく制度の目的を次のように説明します。

“The Health Insurance Act (HIA) guarantees access to high-quality medical care for all persons living in Switzerland.”
(健康保険法は、スイスに住むすべての人に質の高い医療へのアクセスを保障する)

(FOPH, Health Insurance Act)

日本の国民健康保険・社会保険と同様に「全国民を対象にした公的な枠組み」ですが、実際の保険運営は民間保険会社が担います。FOPHは、

“Basic health insurance is offered by private insurers, but the benefits are defined by law.”
(基礎健康保険は民間保険会社が提供するが、給付内容は法律で定められている)

と明記しています(FOPH, Basic health insurance)。どの会社を選んでも「基礎部分のカバー内容は同じ」で、保険料やサービスだけが異なる構造です。

スイス在住者全員に課される加入義務の詳細

LAMalの最大のポイントは、スイスに居住するほぼすべての人に「加入義務」がある点です。FOPHは、

“Anyone living in Switzerland must take out basic health insurance within three months of taking up residence or being born in Switzerland.”
(スイスに住むすべての人は、居住を開始した日またはスイスで出生した日から3か月以内に基礎健康保険に加入しなければならない)

と定めています(FOPH, Compulsory health insurance)。

日本のように「会社の健康保険か国民健康保険か」を選ぶのではなく、「どの民間保険会社でLAMal基礎保険を契約するか」を選ぶ形になります。

この義務は「ビザの種類」や「就労の有無」に左右されません。FOPHは、

“The insurance obligation applies to Swiss citizens and foreign nationals who reside in Switzerland for more than three months.”
(保険加入義務は、3か月を超えてスイスに居住するスイス国民および外国人に適用される)

と説明しています(FOPH, Obligation to insure)。就労ビザだけでなく、家族帯同や学生ビザでも原則LAMalへの加入が必要です。

3か月を超えても加入しない場合、カントン当局が遡及的に保険会社を指定し、未払い保険料を請求する可能性があります。FOPHは、

“If you fail to take out insurance in time, the canton will assign you to an insurer and you will have to pay premiums retroactively.”
(期日までに保険へ加入しない場合、州が保険会社を指定し、保険料を遡って支払う義務が生じる)

と警告しています(FOPH, Failure to comply with the obligation)。

移住準備の段階から、「入国から3か月以内にどの保険会社のLAMalに入るか」を決めておくと、余計な出費やトラブルを避けやすくなります。

基礎保険でカバーされる医療サービスの範囲

LAMalに基づく基礎保険は、「どの会社でも同じベネフィットパッケージ」を提供します。FOPHは、カバーされる範囲を次のように説明しています。

“Basic insurance covers treatment by doctors, outpatient and inpatient care in hospitals, maternity services, and a list of prescription drugs.”
(基礎保険は、医師による治療、病院での外来・入院医療、出産関連サービス、そして処方薬リストに掲載された医薬品をカバーする)

(FOPH, Benefits under compulsory health insurance)

このほか、一定条件を満たすリハビリや検査、精神科・心理療法、慢性疾患の長期管理などが、法律と省令で細かく定められています。FOPHは、

“The benefits are the same for all insurers and are defined in the Health Insurance Act and its ordinances.”
(給付内容はすべての保険会社で同一であり、健康保険法およびその施行令で定義されている)

と繰り返し述べています(FOPH, Basic health insurance)。

日本の国民健康保険と同じく、医療の標準的な部分は広くカバーされますが、

  • 個室・特別室など病室グレード
  • スイス国外での広範な治療
  • 多くの歯科治療

などは、原則として基礎保険の対象外です。この点は事前に理解しておく必要があります。

補足保険(Zusatzversicherung)との違いと選択肢

基礎保険(obligatorische Krankenpflegeversicherung)とは別に、「補足保険(Zusatzversicherung / supplementary insurance)」があります。FOPHは両者の違いについて、

“Supplementary insurance is voluntary and offers additional benefits not covered by basic insurance, such as free choice of hospital ward or contributions to dental treatment.”
(補足保険は任意であり、病室の等級を自由に選べることや歯科治療への給付など、基礎保険でカバーされない追加的な給付を提供する)

と説明しています(FOPH, Supplementary insurance)。

代表的な補足保険のカバー例は次の通りです。

  • 半個室・個室へのアップグレード
  • 海外旅行・海外治療の拡張保障
  • 代替医療(鍼灸・カイロプラクティックなど)
  • スポーツ・事故関連の上乗せ補償

基礎保険が「全居住者に共通する最低限のパッケージ」であるのに対し、補足保険は「生活スタイルや希望するサービス水準に応じたオプション」という位置づけです。

基礎保険は、保険会社が加入申込みを拒否してはいけません。一方で、補足保険はリスク選別が認められ、健康状態や年齢によっては加入不可となる場合があります。FOPHは、

“Insurers must accept all applicants for basic insurance, but they are free to choose whom to accept for supplementary insurance.”
(保険会社は基礎保険についてはすべての申込者を受け入れなければならないが、補足保険については加入者を選別する自由がある)

と指摘しています(FOPH, Differences between basic and supplementary insurance)。

移住初期から、「将来どの程度の医療サービスの質や快適さを求めるか」をイメージし、基礎保険と補足保険の組み合わせを考えておくと、後から慌てずに済みます。

スイスの健康保険料の実態:月額・年齢・州別の費用感

スイスの健康保険料の実態:月額・年齢・州別の費用感

平均的な月額保険料の水準(成人・子供別)

スイスの健康保険料は「世界でも高い水準」にあります。連邦外務省(FDFA)は、

“Health insurance premiums are among the highest in the world… Basic health insurance is mandatory for everyone residing in Switzerland.”
(健康保険料は世界で最も高い水準の一つであり… スイス居住者には基礎医療保険の加入が義務付けられている)

と述べています(FDFA, Health and insurance system)。

2024年時点の目安として、成人(26歳以上)の基礎保険料は、

  • 標準的な自己負担額(フランチャイズ:年間CHF 2,500未満)
  • 通常の保険モデル(自由に医師を選べるモデル)

という条件なら、多くの州で月CHF 400〜600(約6万〜9万円前後)に集中するとされています。Swissinfoは、

“Average monthly premiums for adults will range from around CHF 400 to CHF 600 in 2024 depending on the canton and insurance model.”
(成人の平均月額保険料は、州や保険モデルにより2024年には約400〜600フランの範囲におさまる)

と伝えています(Swissinfo, High and complex premiums)。

子ども(18歳未満が一般的)の基礎保険料は抑えられます。Swissinfoによると、多くの州で月CHF 100〜150程度が多いとされます。

“Children’s premiums are much lower, often around CHF 100–150 per month depending on the canton and deductible.”
(子どもの保険料ははるかに低く、多くの州で月100〜150フラン程度にとどまる)

(Swissinfo, High and complex premiums)

夫婦+子ども1〜2人の世帯なら、「大人2人で月約CHF 800〜1,200+子ども分」というイメージになります。家賃と並ぶ固定費になるため、日本の健康保険料とは別に、移住後の生活費としてしっかり見込む必要があります。

州によって異なる保険料:チューリッヒ・ジュネーブ・ベルンの比較

スイスの基礎保険は全国一律の給付内容ですが、保険料は「州・居住地によって大きく異なる」点が特徴です。連邦外務省は、

“Premiums vary considerably between cantons and even between regions within the same canton.”
(保険料は州ごと、さらには同一州内の地域ごとに大きく異なる)

と説明します(FDFA, Health and insurance system)。

2024年の成人(26歳以上・標準的なフランチャイズ)を例に、代表的な3都市の水準は、JETROやSwissinfoのまとめから次のように読み取れます。

  • チューリッヒ州(チューリッヒ市):月CHF 450〜550前後
  • ジュネーブ州(ジュネーブ市):月CHF 500〜600超(全国でも高水準)
  • ベルン州(ベルン市):月CHF 400〜500程度

Swissinfoは、ジュネーブやバーゼルなど一部の州では保険料が特に高く、

“Residents of cantons like Geneva or Basel often pay several hundred francs more per year than people in cheaper cantons for the same basic coverage.”
(ジュネーブやバーゼルの住民は、より保険料の安い州に比べ、同じ基礎保障でも年間で数百フラン多く支払うことが多い)

と指摘しています(Swissinfo, High and complex premiums)。

都市部は医療費水準や賃金水準が高く、その分保険料も上がりがちです。住む州・市を検討する際は、家賃や税金に加え「健康保険料も州別に見積もる」視点が欠かせません。

年齢・フランチャイズ(免責額)の設定で保険料を調整する方法

スイスの基礎保険料は、主に次の要素で変わります。

  • 年齢(大人・若年成人・子ども)
  • フランチャイズ(年間自己負担の上限額)
  • 保険モデル(自由選択型・かかりつけ医モデル・HMOなど)

連邦公衆衛生局(FOPH)は、フランチャイズについて、

“The higher your annual deductible (franchise), the lower your monthly premium. The deductible can range from CHF 300 to CHF 2,500 for adults.”
(年間のフランチャイズを高く設定するほど、毎月の保険料は低くなる。成人のフランチャイズは300〜2,500フランの範囲で選択できる)

と説明しています(FOPH, Health insurance: premiums and deductibles)。

大まかなイメージは次の通りです。

  • 最低フランチャイズ(CHF 300)
    → 月額保険料は高めだが、病院利用時の自己負担は少ない
  • 最高フランチャイズ(CHF 2,500)
    → 月額保険料は数十〜100フラン程度下がる一方、年間最初の2,500フランは自費

FOPHも、

“People who rarely need medical treatment can save money by choosing a higher deductible, while those with chronic illnesses are advised to opt for a lower deductible.”
(医療を利用することが少ない人は高いフランチャイズを選ぶことで保険料を節約できる一方、慢性疾患を抱える人には低いフランチャイズが推奨される)

と述べています(FOPH, Health insurance: premiums and deductibles)。

移住前には、ここ数年の医療利用状況(持病の有無、通院・投薬頻度)を振り返り、「年にどの程度の医療費が出そうか」を想定しておくと、適切なフランチャイズを選びやすくなります。

低所得者向けの保険料補助制度(Prämienverbilligung)

スイスでは、健康保険料の家計負担が社会問題になっています。JETROは「保険料の高騰とその抑制策」が政府の重要課題だと指摘し、

「スイスでは家計に占める医療保険料の負担が大きく、保険料の高騰を抑えることが連邦政府・州政府共通の優先課題となっている。」

と述べています(JETRO『高騰する健康保険料とその抑制策』)。

その一方で、低所得世帯の負担軽減策として、「Prämienverbilligung(プレミエン・フェアビリグング=保険料軽減措置)」と呼ばれる補助制度が各州で実施されています。FOPHは、

“People on low incomes are entitled to reductions in their health insurance premiums (premium reductions), financed jointly by the Confederation and the cantons.”
(低所得者は健康保険料の軽減(プレミアム減額)を受ける権利があり、その財源は連邦政府と州政府が共同で負担している)

と説明しています(FOPH, Premium reductions)。

制度の主なポイントは次の通りです。

  • 所得・資産・家族構成などに応じて、基礎保険の月額保険料の一部を州が補助
  • 基準や申請方法は州ごとに異なる
  • 多くの州では、申請が必要

Swissinfoは、

“Many households are entitled to premium reductions, yet the system is complex and not everyone who qualifies actually applies.”
(多くの世帯が保険料軽減の対象となるものの、制度が複雑で、要件を満たしていても実際には申請していない人も少なくない)

と指摘しています(Swissinfo, High and complex premiums)。

移住者にとっても、所得や家族構成によっては、この補助で実質的な保険料負担を下げられる可能性があります。居住予定州の政府サイトで「Prämienverbilligung」の条件を確認し、該当しそうであれば、到着後早期に申請したいところです。

患者の自己負担:フランチャイズ・自己負担割合・年間上限の仕組み

患者の自己負担:フランチャイズ・自己負担割合・年間上限の仕組み

スイスの医療保険では、月々の保険料とは別に、病院受診時の「自己負担」の仕組みが特徴的です。Swissinfoはスイスの医療費について、

“Patients have to pay part of the costs themselves – through an annual deductible and a co-payment – even though basic insurance is compulsory.”
(患者は、基本保険加入が義務であるにもかかわらず、年間の免責額と自己負担分という形で、医療費の一部を自分で支払わなければならない)

と説明しています(Swissinfo, High costs and high deductibles)。

ここでは、戸惑いや予想外の出費を避けるために、フランチャイズ(免責額)・自己負担割合・年間上限の3つを整理します。

フランチャイズ(免責額)制度の選び方と節約効果

スイスの義務医療保険(基礎保険)では、まず「フランチャイズ(Franchise)」と呼ばれる年間免責額を自分で選びます。連邦公衆衛生局(FOPH)は、成人のフランチャイズについて、

“For adults, the minimum annual deductible is CHF 300. They can choose higher deductibles of up to CHF 2,500 in exchange for lower premiums.”
(成人の年間フランチャイズの最低額は300フラン。保険料が安くなる代わりに、最大2,500フランまで高いフランチャイズを選択できる)

と定めています(FOPH, Health insurance: deductible and co-payment)。

一般的には、300 / 500 / 1,000 / 1,500 / 2,000 / 2,500CHF と段階的に用意され、

  • 低いフランチャイズ(例:300CHF)
    → 月々の保険料は高く、病院によく行く人向き
  • 高いフランチャイズ(例:2,500CHF)
    → 保険料はかなり安くなるが、病気やケガの年には負担が大きくなる

という関係になります。

Swissinfoも、

“People can lower their monthly premiums by choosing a higher annual deductible, but this increases the financial risk if they fall ill.”
(年間フランチャイズを高く設定することで月々の保険料を抑えられるが、病気になった場合の経済的リスクは大きくなる)

と解説しています(Swissinfo, High and complex premiums)。

海外移住者の場合、慢性疾患の有無や子どもの健康状態に応じて、

  • 既往症があり通院が多くなりそう → 低めのフランチャイズでリスク抑制
  • 健康で貯蓄に余裕がある → 高めのフランチャイズで保険料節約

といった選択が現実的です。フランチャイズは原則年1回しか変更できません。その年に大きな手術や長期治療が発生した場合に、どこまで自己負担に耐えられるか、家計のキャッシュフローから逆算して決める必要があります。

10%の自己負担割合(Selbstbehalt)と年間上限700CHF

スイスでは、フランチャイズを支払い終えた後も自己負担が続きます。ここが日本との大きな違いです。FOPHは、

“Once the annual deductible has been reached, the insured person pays 10% of the further costs (co-payment), up to a maximum of CHF 700 per year for adults.”
(年間フランチャイズに達した後、被保険者はそれ以降の費用の10%を自己負担するが、その額は成人で年間最大700フランまでと定められている)

と説明します(FOPH, Health insurance: deductible and co-payment)。

仕組みを整理すると、次のようになります。

  1. 年間医療費がフランチャイズ額に達するまで:100%自己負担
  2. フランチャイズ超過分:10%を自己負担(Selbstbehalt)、90%を保険負担
  3. この10%自己負担には年間上限がある:成人は最大700CHF、子どもは350CHF

海外旅行保険会社のエス・ビー・アイ少額短期保険も、スイスの医療費について、

「公的医療保険に加入していても、フランチャイズや10%の自己負担により、患者側の支払いが高額になるケースがある」

と注意を促しています(SBIS「スイス旅行での高額医療費事例」)。「保険にさえ入っていれば全額カバーされる」という日本的な感覚は通用しないと考えた方が安全です。

入院時の1日22CHF負担と長期入院リスク

入院時には、外来診療とは別に「1日あたりの定額自己負担」があります。FOPHは、

“Adults pay a contribution of CHF 15 per day during hospital stays in their canton of residence.”
(成人は、居住州内での入院時に1日15フランの負担を支払う)

と案内しています(FOPH, Hospital costs)。州やプランによっては1日22CHF前後を負担する例も報告されています。

留学支援会社FESのスイス解説では、

「スイスの公的保険加入者でも、入院すると1日あたり約22フランを自己負担する必要があり、長期入院ではこの費用も無視できない負担となる」

とされています(FES「スイス留学生向け医療保険ガイド」)。30日入院すれば、22CHF × 30日=660CHFを追加で払う計算です。

この1日定額負担は、前述の10%自己負担の年間上限(700CHF)とは別枠です。長期入院や出産で入院が長引くと、

  • フランチャイズ+10%自己負担(最大700CHF)
  • 入院1日あたりの定額負担(例:22CHF×日数)

の合計で、年間自己負担額が膨らみます。慢性疾患がある人や高齢の家族がいる世帯では、この入院リスクも織り込んだうえで、貯蓄や民間の追加保険を検討したいところです。

実際にかかった医療費の計算例(骨折・手術・慢性疾患)

自己負担がどの程度になるか、代表的なケースでイメージしてみます。ここではFOPHのルール(フランチャイズ+10%自己負担+年間上限700CHF)に沿った概算例を示します。

ケース1:スキー中の骨折で外来治療・短期入院

日本の保険会社SBISは、スイス旅行中の高額医療費例として、

「スキー中の骨折で現地病院に搬送され、手術と数日間の入院で医療費が数万フラン(数百万円)に達した例」

を紹介しています(SBIS「スイス旅行での高額医療費事例」)。

総医療費を20,000CHF、フランチャイズを2,500CHFとして計算します。

  • まずフランチャイズ2,500CHFは全額自己負担
  • 残り17,500CHFの10%=1,750CHFが自己負担候補だが、年間上限700CHFで頭打ち
  • よって、この年の自己負担は2,500+700=3,200CHF(+入院1日あたり22CHF×日数)

20,000CHF(約320万円)の医療費に対し、自己負担3,200CHF+入院日額で済みます。ただし、「フランチャイズが高いため、3,000CHF超をまとまって用意する必要がある」負担感は無視できません。

ケース2:慢性疾患で年間を通じて定期通院

持病があり定期通院する場合、年間医療費がそれほど多くなくても、低めのフランチャイズの方が有利なことがあります。医療費総額を2,000CHF、フランチャイズを300CHFとします。

  • 最初の300CHFは全額自己負担(フランチャイズ)
  • 残り1,700CHFの10%=170CHFを自己負担
  • 年間上限700CHFには届かないため、自己負担合計は300+170=470CHF

同じ人がフランチャイズ2,500CHFのプランを選んでいた場合、年間2,000CHFはすべて自己負担となり、2,000CHFを払うことになります。

健康状態や通院頻度がある程度予測できるなら、

  • 「どのくらい病院に行きそうか」
  • 「手術や事故など最悪ケースをどこまで貯蓄でカバーできるか」

を数年単位で見積もり、フランチャイズを戦略的に決めたいところです。FOPHや州政府、保険会社が公開するシミュレーションツールを使い、自分と家族の条件で複数パターンを比較しておくと判断しやすくなります。

スイス移住後の保険加入手続き:日本人が知るべき実務ステップ

スイス移住後の保険加入手続き:日本人が知るべき実務ステップ

スイス到着後3ヶ月以内の加入義務と手続きの流れ

スイスでは、居住を開始した人すべてに対し、到着から3か月以内に基礎医療保険(KVG/LAMal)へ加入する義務があります。連邦内務省保健局(FOPH)は、

“Anyone living in Switzerland must take out basic health insurance within three months of taking up residence”
(スイスに居住する者は、居住開始から3か月以内に基礎医療保険を取得しなければならない)

と明記しています(FOPH)。

実務上のおおまかな流れは次の通りです。

  1. 自治体への居住登録(Anmeldung)
    到着後、通常14日以内に居住地の市区町村役場(Gemeinde)で住民登録を行います。ビザ、パスポート、賃貸契約書などを提出します。
  2. 健康保険加入証明の提出期限を確認
    登録時または後日、「健康保険加入証明の提出を求める書面」が届きます。提出期限は多くの場合、到着から3か月以内です。
  3. 保険会社(Krankenkasse)を選び、オンラインで申込
    日本から手続きできる場合もありますが、多くの保険会社はスイス住所や居住許可番号を求めます。実務的には到着後〜1か月以内に比較・申込を済ませておくと安心です。
  4. 保険開始日は原則「スイス居住開始日に遡及」
    FOPHによれば、3か月以内に加入手続きを完了すれば、保険適用開始日は原則として居住開始日に遡ります。

“If you register within three months, the insurance cover will apply retroactively from the date you took up residence.”
(3か月以内に加入登録を行った場合、保険の補償は居住開始日に遡って適用される)

(FOPH)

  1. 期限を過ぎた場合のペナルティ
    3か月を過ぎても加入していないと、自治体が保険会社を指定して強制加入させます。その際、保険料の割増や遅延期間分の保険料の一括請求が行われる可能性があります。

保険会社(Krankenkasse)の選び方と比較サイトの活用法

スイスの基礎医療保険は「一本化された国民健康保険」ではなく、複数の民間保険会社から選ぶ仕組みです。FOPHは、

“Basic health insurance is provided by private insurance companies, but the benefits are defined by law and are the same for all insurers.”
(基礎医療保険は民間保険会社が提供するが、給付内容は法律で定められており、どの保険会社でも同一である)

と説明します(FOPH, Basic health insurance)。

比較のポイントは主に次の3点です。

  • 保険料(Prämie):会社・州・郵便番号ごとに月額保険料が大きく異なる
  • モデルの種類:通常モデルのほか、かかりつけ医モデル(HMO/Family doctor)、テレメディシンモデルなど
  • 顧客サービス・言語対応:英語・仏語・独語でのサポート、日本語窓口の有無

保険会社選びでは、スイス政府も紹介する民間比較サイトが役立ちます。外務省管轄のスイス紹介サイト aboutswitzerland.eda.admin.ch は、

“Premiums vary considerably between insurers and cantons. Comparison websites such as comparis.ch can help you find the most suitable offer.”
(保険料は保険会社や州によって大きく異なる。comparis.chのような比較サイトは、最も適したプランを探すのに役立つ)

と案内しています。

比較の手順例は次の通りです。

  1. Comparis.ch などにアクセスし、郵便番号、年齢、希望フランチャイズ額、モデルを入力
  2. 保険料の安い順に並べ、上位5社程度を候補として抽出
  3. 各社公式サイトで英語対応や追加サービスを確認
  4. オンライン申込(電子署名やPDF提出)

在留許可証番号が未発行の段階では「仮申込」扱いとなる場合もあるため、その点は事前確認が必要です。

日本の健康保険・国民健康保険の脱退手続き

スイスの健康保険加入と並行して、日本側の公的医療保険の整理も必要です。厚生労働省や協会けんぽの案内によれば、次のように整理できます。

  1. 会社員として「健康保険(被用者保険)」に加入している場合
    協会けんぽは、

「退職したときは、退職日の翌日から被保険者の資格を喪失します」

と案内しています(全国健康保険協会)。海外転出を伴う退職でも同様で、退職時に健康保険証を返却すると資格喪失となります。任意継続も選べますが、スイスで公的医療保険に加入する以上、二重負担となるため個別に検討が必要です。

  1. 自営業・フリーランスなど「国民健康保険」に加入している場合
    厚生労働省の通知では、国外転出する人は住民票を除票すると国民健康保険の資格を喪失するとされます。

「被保険者が海外転出により住民基本台帳から除かれたときは、国民健康保険の被保険者資格を喪失する。」

とされています(厚生労働省通知)。市区町村役場で転出届を提出する際に、国民健康保険証を返却すれば脱退が完了します。海外転出日以降は保険料がかからないため、転出届の提出日とスイス渡航日をそろえておくとスムーズです。

日・スイス社会保障協定の活用:年金の二重加入を避ける方法

医療保険とは別に、日本とスイスでは年金制度への加入も義務化されています。ここで重要になるのが、2012年9月発効の「日・スイス社会保障協定」です。日本年金機構は協定の目的を、

「日本とスイスでの年金制度の二重加入問題の解消及び年金受給資格期間の通算を可能とすることを目的とする。」

と説明しています(日本年金機構『日・スイス社会保障協定』)。

この協定により、条件を満たす場合は、日本かスイスどちらか一方のみ加入すればよいケースが生じます。日本年金機構は、原則5年以内の駐在員などについて、

「日本からスイスに派遣される被用者は、原則として5年を限度として日本の年金制度のみに加入し、スイスの年金制度の適用を免除されます。」

としています(日本年金機構『日・スイス社会保障協定の概要』)。

実務の流れは次の通りです。

  1. 自身が協定の対象か確認する
  2. 日本企業からスイス法人などへ期間を定めて派遣されるか
  3. 現地採用・個人移住としてスイスの会社に雇用されるか

日本年金機構は、後者の「現地採用者」は協定による免除対象外で、スイスの制度への加入が原則と案内しています。

「現地採用される方は、スイスの年金制度のみに加入することとなり、日本の厚生年金保険等の被保険者とはなりません。」

(日本年金機構『日・スイス社会保障協定 Q&A』)

  1. 派遣社員の場合:適用証明書の申請
    日本の厚生年金に加入し続け、スイス側の年金保険を免除してもらうには、日本年金機構を通じて「適用証明書」を発行してもらいます。申請は事業主経由で行い、コピーをスイスの雇用主・当局に提示します。

  2. 任意加入・国民年金の扱い
    20〜59歳で海外在住の場合、日本の国民年金には任意加入が可能です。厚生労働省は、

「日本国内に住所を有しない20歳以上60歳未満の日本国籍を有する者は、任意加入被保険者として国民年金に加入することができる。」

としています(厚生労働省『国民年金制度の概要』)。スイスの老齢年金(AHV)とのバランスを見ながら判断します。

まとめると、

  • 医療保険:到着後3か月以内の加入義務があり、Comparisなどで保険会社を比較しつつ、居住開始日に遡って補償が始まるように手続きする
  • 日本の健康保険:退職・転出手続きと連動させて資格喪失させ、二重負担を避ける
  • 年金:日・スイス社会保障協定に基づき、自身が「派遣」か「現地採用」かを確認し、日本年金機構経由で必要な証明書を取得する

これらを渡航前からスケジュールに落とし込んでおくと、スイス到着後の3か月を手続きに追われずに済みます。

スイスの医療費は世界2位:高騰する保険料と国の抑制策

スイスの医療費は世界2位:高騰する保険料と国の抑制策

GDP比で世界2位の保健医療支出:2018年819億CHFの内訳

スイスは「医療先進国」であると同時に、「医療費世界トップクラスの国」でもあります。日本貿易振興機構(JETRO)は、スイス連邦統計局(BFS)のデータを引用し、2018年のスイスの保健医療支出は約819億スイスフラン(CHF)で、GDP比約12%に達し、OECD諸国でアメリカに次ぎ世界2位の水準と紹介しています。

「2018年のスイスの保健医療支出は約819億フランで、国内総生産(GDP)比では約12%に達し、OECDの中で米国に次いで2番目に高い水準となっている。」

(JETRO『スイスにおける高騰する健康保険料』)

JETROは、この819億CHFには、①入院・外来診療、②医薬品、③介護・長期ケア、④リハビリテーション、⑤予防・公衆衛生などが含まれると説明します。病院・診療所への支出と医薬品費用が特に大きく、高齢化と医療技術の高度化で増加傾向にあります。

スイス公共放送の国際サービス swissinfo.ch も、OECD統計をもとに、

「スイスの1人当たり医療費は世界で2番目に高く、米国に迫る水準」

とし、

「スイスは長年にわたり、一人当たり医療支出で世界の上位に名を連ねてきた。OECDのデータでは、米国に次ぐ高水準であり、GDP比でもほぼ12%に達している。」

と解説しています(swissinfo.ch『なぜスイスの健康保険料はこれほど高いのか』意訳)。

移住を考える立場から見ると、「医療水準が高い=医療費・保険料負担も重い」と認識し、その前提で生活費設計を行う必要があります。

保険料が毎年上昇し続ける構造的な原因

スイスの医療費の高さは一時的な現象ではなく、長期的・構造的な保険料上昇の結果とされます。JETROは、義務医療保険の保険料について、

「義務的な健康保険の保険料はここ20年余り、ほぼ毎年上昇しており、1996年以降で約2倍に増加したとされる。」

と紹介しています(JETRO『スイスにおける高騰する健康保険料』)。

swissinfo.chも、保険料が長期的に物価や賃金を上回るペースで増えていると指摘し、

「過去20年間で、家計が支払う健康保険料は名目所得の伸びを大きく上回るスピードで増加してきた。」

と述べています(swissinfo.ch『スイスの医療費高騰と政治的論争』意訳)。

JETROやswissinfo.chは、保険料高騰の構造的要因として次の点を挙げています。

  • 高齢化と慢性疾患の増加
  • 医療技術の高度化・新薬導入によるコスト増
  • 患者の受診頻度の高さと受診しやすい制度
  • 医師・病院・保険会社のインセンティブ構造(出来高払い中心など)

とくにスイスでは、民間保険会社が公的な義務医療保険を運営する仕組みが特徴です。JETROは、「保険会社間の競争はサービス向上を促す一方、医療費全体の抑制には十分機能してこなかった」と分析しています。その結果、家計が支払う保険料負担は年々重くなり、政治的にも「最重要テーマ」のひとつになっています。

2024年の医療財政改革:国民投票で可決された健康保険法改正の内容

医療費・保険料高騰が続く中、連邦政府と議会は医療財政の持続可能性を高めるための改革を進めています。2024年12月には、医療費抑制を目的とした健康保険法(KVG/LAMal)の改正案が国民投票で可決され、今後数年かけて実施される見通しです。

JETROは、この改革について、

「2024年12月の国民投票では、医療費の伸びを抑制するための健康保険法改正が可決された。改正法では、医療費の増加率に対して『コスト抑制目標』を設定し、目標を大きく上回る場合には連邦および州が是正措置を講じることが義務付けられる。」

と紹介しています(JETRO『スイスの医療財政改革:健康保険法改正』)。

swissinfo.chも、

「連邦政府と州が共同で医療費の『コスト目標』を設定し、支出が目標を超えた場合には料金体系の見直しや給付内容の調整などを行うことが可能になる。」

と解説しています(swissinfo.ch『健康保険料を巡る最新の国民投票』意訳)。医療費の伸びに「天井」を設ける仕組みが導入された形です。

ただし、これは「増加ペースを抑える」ための改革であり、すぐに保険料が大きく下がるわけではありません。JETROも、「今回の改正だけで保険料負担の重さが解消されるわけではなく、今後も追加改革が議論される」と述べています。移住希望者は、「高水準の医療費・保険料が今後も続く可能性が高い」という前提で資金計画を立てる必要があります。

日本と比較したスイスの医療費負担の重さ

最後に、日本とスイスの制度を比較し、家計にとっての負担感の違いを整理します。日本の医療保険制度について、厚生労働省は、

「日本の医療保険制度は、国民皆保険のもと、被用者保険と国民健康保険を中心に構成されている。医療機関の窓口負担は原則として3割であり、高額療養費制度により一定額を超える自己負担分は給付の対象となる。」

と説明しています(厚生労働省『我が国の医療保険制度』)。

一方、スイスの義務医療保険は日本と同じく「国民皆保険」ですが、保険料の仕組みと自己負担の形が大きく異なります。JETROは、スイスの特徴として、

「スイスの義務的健康保険の保険料は、原則として年齢・居住地・保険会社・自己負担額(フランチャイズ)に応じて決まり、被保険者の所得には連動しない。また、診療時にはフランチャイズ(年間自己負担額)とコペイメント(自己負担率)を組み合わせた自己負担が発生する。」

と説明しています(JETRO『スイスにおける高騰する健康保険料』)。

日本では「所得に応じた保険料+原則3割負担+高額療養費制度」という構造です。スイスでは、所得非連動の定額保険料に加え、高めの自己負担(フランチャイズ+10%)が発生する仕組みです。swissinfo.chは、

「スイスの多くの家計にとって、健康保険料は家計支出の中で家賃に次ぐ大きな項目となっており、低中所得層では保険料補助がなければ支払いが困難だとされる。」

と述べています(swissinfo.ch『健康保険料は家計を圧迫しているか』意訳)。

移住を検討する際には、「日本より高い医療費・保険料がかかる」前提で、月々の保険料と自己負担上限を生活費に組み込むことが重要です。特に家族帯同の場合は、世帯全員分の保険料が家賃と並ぶ固定費になります。居住地選び(カントン・コミューン)、フランチャイズの設定、補償範囲などを慎重に設計したいところです。

スイスで受診する際の実際の流れ:かかりつけ医制度と専門医受診の仕組み

スイスで受診する際の実際の流れ:かかりつけ医制度と専門医受診の仕組み

スイスで医療機関を受診する際、日本の感覚で「具合が悪いから大病院へ直接」という行動を取ると、保険条件によっては自己負担が増えたり、保険適用外になったりする危険があります。連邦公衆衛生局(FOPH)は、

「健康保険に加入しているすべての人は、疾病、出産および事故(加入内容による)に関する医療サービスを受ける権利を有するが、その提供方法は保険モデルによって異なる。」

と説明しています(FOPH, Health insurance: compulsory health care insurance 意訳)。

どのモデルの保険を選ぶかで、受診の入り口や専門医へのアクセスが変わります。

ハウスアルツト(かかりつけ医)制度:専門医への紹介状が必要な理由

多くの移住者が選ぶのが、「ハウスアルツトモデル(Hausarztmodell)」と呼ばれるかかりつけ医ベースの保険モデルです。連邦公衆衛生局は、代替モデルについて、

「被保険者は、まず最初に一般開業医(family doctor)やHMOセンターなど、特定の連絡窓口にかかる義務を負うモデルを選択することで、保険料の割引を受けることができる。」

と説明しています(FOPH, Alternative insurance models 意訳)。

実際の受診フローは次の通りです。

  1. 体調不良や慢性疾患の相談 → 登録しているかかりつけ医(Hausarzt)に連絡し予約
  2. 診察・検査 → 必要に応じて薬の処方や経過観察
  3. 専門的な治療が必要な場合 → 専門医への紹介状(Überweisung)を発行
  4. 紹介状を持って専門医を受診

ハウスアルツトモデルでは、自己判断で直接専門医に予約すると、保険ルール違反となり、費用が全額自己負担になる可能性があります。

FOPHは、

「強化されたプライマリケアは、医療システムの効率性と持続可能性の鍵である」

と述べ(FOPH, Primary care medicine 意訳)、まずかかりつけ医を通すことの重要性を強調します。

日本のように、軽い症状で直接大学病院の専門外来に行く文化ではありません。移住後は早めに信頼できるハウスアルツトを見つけ、家族全員で登録しておくと安心です。

救急受診・夜間診療の利用方法と費用

かかりつけ医が基本とはいえ、急病や事故の場合は救急を利用できます。スイス政府観光局は旅行者向けに、

「救急車・消防 144番、警察 117番、ヨーロッパ共通緊急番号 112番」

と案内しています(Switzerland Tourism, Emergency numbers)。在住者も同じ番号を利用します。生命に関わる症状(意識障害、ひどい胸痛、大出血など)の場合は、迷わず144番へ通報します。

一方、「救急車を呼ぶほどではないが、夜間や週末に子どもが高熱を出した」ような場合は、各カントンの医師会が運営する当番医・夜間診療(Notfallpraxis / Permanence)が窓口になることが多いです。例えばチューリヒ医師会は、

「緊急ではないが早急な診察が必要な場合、まず医師会の緊急電話に連絡することで、適切な当番医や診療所が案内される」

と説明しています(Ärztegesellschaft des Kantons Zürich, Ärztliche Notfalldienste 意訳)。電話で症状を聞き取り、適した窓口へ振り分ける仕組みです。

費用面では、救急外来・救急車ともに基本保険の対象ですが、フランチャイズと10%の自己負担が適用されます。FOPHは、

「被保険者は、選択したフランチャイズ額までは医療費を全額負担し、その後は医療費の10%を自己負担する(年間上限あり)。救急サービスもこのルールの対象となる。」

と定めています(FOPH, Cost sharing: deductible and co-payment 意訳)。

救急車を安易に利用すると数万円規模の請求になりかねません。緊急度に応じて「かかりつけ医/当番医/救急」のどこへ連絡するかを、家族で事前に共有しておくことをおすすめします。

言語の壁:ドイツ語・フランス語・イタリア語圏での受診対策

スイスはドイツ語・フランス語・イタリア語・ロマンシュ語の4言語を公用語にしています。連邦統計局(FSO)によると、

「2021年時点で、住民の約62%が主にドイツ語(スイスドイツ語を含む)、23%がフランス語、8%がイタリア語を主言語としている。」

と報告されています(FSO, Languages in Switzerland)。多くの移住者はドイツ語圏かフランス語圏で暮らすことになります。

診療現場では、地域の公用語が基本です。チューリヒならドイツ語、ローザンヌならフランス語が標準です。ただし大学病院や都市部のクリニックでは、英語で対応できる医師や看護師も少なくありません。FOPHは移民向け情報の中で、

「多くの医療専門職は英語を話すが、そのレベルと利用可能性は地域や施設によって異なるため、予約時に希望言語を伝えることが望ましい。」

と案内しています(FOPH, Health care for migrants 意訳)。

言語の壁を和らげるための現実的な対策は次の通りです。

  • 予約時に「英語対応の医師希望」と伝える
  • 自分の症状や既往歴、服薬中の薬を英語でメモして持参
  • 重要な診察や手術説明の際は、通訳サービスや信頼できるバイリンガルの知人に同行を依頼
  • 子どもの場合は、学校経由で医療サポートや通訳手配が可能か事前に確認

スイス国内のインターナショナルスクールや日本人学校の中には、「医療機関での通訳手配や受診同行」をサポートに含めるところもあります。f-e-s.co.jpはスイスのボーディングスクール紹介で、

「現地校との連携だけでなく、病院受診時の通訳や付き添いなど、保護者が不在の場合の医療面サポートも提供している」

と説明しています(FES『スイスボーディングスクール留学サポート』意訳)。子ども連れ移住では、学校や留学エージェントがどこまで医療サポートを行うかも重要な比較ポイントになります。

英語対応・日本語通訳サービスが受けられる医療機関の探し方

スイス政府や日本大使館も、外国人向けに医療情報へのアクセスを案内しています。駐スイス日本国大使館は、在留邦人・旅行者向けに、

「日本語または英語で診療可能な医療機関リストを作成し、ウェブサイト上で公開している」

としています(在スイス日本国大使館『スイスの医療機関情報』意訳)。都市別に日本語・英語対応の病院やクリニックが紹介されており、初期のかかりつけ医探しや救急時の参考になります。

スイス全土の医師検索ポータルとしては、スイス医師会(FMH)の

「Doctorfmh.ch は、専門分野、言語、所在地などの条件で医師を検索できる公式プラットフォームである」

があり(FMH, Doctor search 意訳)、検索条件に”English”や”Japanese”を指定して対応言語を絞り込めます。

通訳サービスについては、各カントンが移民向けにコミュニティ通訳(intercultural interpreters)を整備しつつあります。たとえばチューリヒ州は、

「医療・教育・社会サービスにおけるコミュニティ通訳の利用は、利用者の権利と安全を守るために重要であり、州が認定した通訳ネットワークを通じて提供されている」

と説明しています(Kanton Zürich, Interkulturelles Dolmetschen 意訳)。医療機関側が公式通訳を手配できる体制です。ただし日本語対応通訳は少なく、事前予約が必要な場合が多いのが実情です。

医療英語に不安がある場合は、

  • 日本大使館リストや Doctorfmh.ch で英語対応医を探す
  • 重要な診察ではカントンのコミュニティ通訳や民間医療通訳サービスを予約する
  • 在留邦人コミュニティ(SNSグループなど)で、実際に利用して良かった医師・通訳の情報を集める

といった手順で、「言語の壁による医療アクセスの断絶」を減らせます。医療・保険制度は高水準ですが、言語や制度への理解が不十分だと本来のサービスを十分に活用できません。移住準備の段階で、かかりつけ医・救急連絡先・通訳手段の3点を必ず整理しておくことをおすすめします。

歯科・眼科・メンタルヘルス:基礎保険でカバーされない医療の落とし穴

歯科・眼科・メンタルヘルス:基礎保険でカバーされない医療の落とし穴

歯科治療は原則自費:スイスの歯科費用の相場と民間歯科保険

スイスの医療制度で最初に押さえたいのが、「成人の歯科治療は原則として基礎医療保険(Grundversicherung)の対象外」という点です。連邦内務省保健局(BAG)は、歯科治療が保険対象になるのは、

「重度の全身疾患の結果として歯科治療が必要となる場合、または治療しないと重篤な全身疾患を引き起こす場合など、法令で定められた例外ケースに限られる」

と説明しています(BAG, Leistungen der OKP – Zahnärztliche Behandlung 意訳)。虫歯治療、クリーニング、詰め物・クラウンといった日常的な歯科治療は、基本的に自費です。

費用感は地域や医院で異なりますが、在住者の情報や保険会社の例示を総合すると、次の水準が目安になります。

  • 歯のクリーニング(歯石取り)1回:およそCHF 100〜200
  • 小さな虫歯の詰め物:CHF 200〜400程度
  • 大きな虫歯治療・クラウン:CHF 800〜1,500以上になることもある

スイス歯科医師会(SSO)のポイント制料金表では、診療項目ごとに点数を定め、

「1ポイントあたりの料金は、診療所の所在地や運営形態に応じておよそCHF 1.00〜1.70の範囲で設定される」

とされています(SSO, Taxpunktwert 意訳)。都市部や私立クリニックでは高くなりがちです。

家族全員分の定期検診とクリーニングを年1〜2回受けるだけでも、年間で数十万円相当の負担になり得ます。そのため、多くのスイス人や長期在住者は、民間保険会社の「歯科補足保険(Zahnzusatzversicherung)」で備えています。

大手保険会社CSSは、歯科補足保険について、

「歯科治療費と歯科矯正費の一部をカバーし、プランに応じて50〜75%の費用補償が可能」

と案内しています(CSS Versicherung, Zahnversicherung 意訳)。保険料は年齢・補償割合・年間限度額で変わります。加入前に歯科検診レポートの提出が必要なことも多く、既に虫歯や歯周病があると条件付きや加入不可となる場合もあります。

そのため、「移住後落ち着いてから検討」ではなく、なるべく早めに検診と補足保険加入の可否確認を進めるとよいでしょう。

眼科・視力矯正も自己負担:コンタクト・眼鏡費用の実態

視力矯正についても、スイスの基礎保険はカバーが限定的です。BAGのガイドラインでは、

「18歳以上の成人に対する眼鏡・コンタクトレンズの費用は、特定の重度疾患に関連する場合を除き、義務的医療保険の給付対象外である」

とされています(BAG, KLV Anhang 2 意訳)。一般的な近視・乱視のメガネ・コンタクト購入は自費です。

子どもについては、視力矯正が発達上重要であることから、

「18歳未満の被保険者には、視力障害の程度に応じて年間一定額まで眼鏡費用を補償する」

とされ(BAG, KLV Anhang 2, Ziff. 2.1 意訳)、上限額は多くのケースで年間CHF 180程度です。ブランドフレームや高機能レンズの全額が出るわけではありません。

スイスの眼鏡・コンタクトの価格帯はおおよそ次の通りです。

  • 一般的なフレーム+単焦点レンズ:合計CHF 200〜500程度
  • コンタクトレンズ(使い捨て):1箱(約1か月分)あたりCHF 30〜60

視力が変わりやすい子どもがいる場合や、家族全員が眼鏡ユーザーの世帯では、年間トータルでかなりの額になり得ます。

補足保険の中には、「眼鏡・コンタクト費用を一定額まで補償するプラン」を用意する会社もあります。Helvetiaは、

「補足保険により、眼鏡やコンタクトレンズ費用を一定周期ごとに最大CHF 300まで補償するプランを提供している」

と案内しています(Helvetia, Zusatzversicherung – Sehhilfen 意訳)。視力矯正が必須の人にとって、移住後の固定費を抑える一つの方法です。

日本で眼鏡・コンタクトを複数本作って持ち込むという実務的対策と合わせ、「補足保険でどこまでカバーするか」「どのくらいの頻度で買い替えるか」を移住前にイメージしておきたいところです。

メンタルヘルス診療の保険適用条件と精神科受診の現実

歯科・眼科と対照的に、メンタルヘルスは基礎保険のカバーが比較的手厚い領域です。ただし、どの専門家への相談が保険適用になるかは注意が必要です。BAGは2022年7月の制度改正について、

「医師の指示のもと、認定臨床心理士による心理療法に義務的医療保険から給付を行う新しいモデルを導入した」

と公表しました(BAG, Direktzugang zur psychologischen Psychotherapie 意訳)。

これにより、以前は精神科医の診療に紐づいていた形から、かかりつけ医や精神科医の指示書を条件に、臨床心理士へのアクセスが広がりました。

整理すると次のようになります。

  • 精神科医・かかりつけ医の診察:基礎保険でカバー(免責・自己負担は他科と同様)
  • 認定臨床心理士による心理療法:医師の指示書があり、保険承認範囲内なら基礎保険でカバー
  • 自由診療のカウンセリング(コーチング等):保険適用外のケースが多く、自費

BAGは新制度の目的を、

「精神疾患患者に対する心理療法へのアクセスを改善し、待機時間を短縮すること」

としています(BAG, Medienmitteilung 2022 – Psychologische Psychotherapie 意訳)。うつ病や不安障害などで専門的支援が必要になった場合でも、以前より受診しやすくなりました。

一方で、都市部では「英語・外国語で診療可能なセラピストが慢性的な予約待ち」という現実もあります。スイス精神科・心理療法医連盟(FMPP)は、

「特に都市部では、精神科・心理療法サービスの需要増加により、患者の待機時間が問題となっている」

と指摘しています(FMPP, Psychische Gesundheit in der Schweiz 意訳)。

実務上、移住者が押さえておきたいポイントは次の通りです。

  • 家庭医(Hausarzt)を早めに登録し、メンタル不調時もまず相談できる関係をつくる
  • ゲートキーパー型プラン(Hausarztmodell / HMO)の場合、精神科・心理士受診にも紹介が必要になると理解しておく
  • 在留邦人コミュニティや大使館リストで、日本語・英語対応の精神科・心理士情報を事前に集めておく

メンタルヘルスは費用だけでなく、言語・文化的なハードルも高い分野です。「不調を自覚してから探し始める」のではなく、移住前・移住直後に頼れる窓口を確認しておくと安心度が違います。

補足保険(Zusatzversicherung)で備えるべき医療リスク一覧

ここまで見てきたように、スイスの基礎保険は重い病気・入院・標準的な外来には強い一方、

  • 成人の歯科治療
  • 眼鏡・コンタクトなど視力矯正
  • 代替医療や予防的なチェックアップ

などは自己負担が大きくなります。BAGも、義務的医療保険について、

「保険は有効で経済的、かつ適切な医療サービスに限定して給付する。補足的なサービスは民間保険契約に委ねられる」

と説明しています(BAG, Krankenversicherung – Grundversicherung und Zusatzversicherung 意訳)。

移住者・長期滞在者が検討したい主な補足保険は次のようなものです。

  • 歯科補足保険:虫歯治療・矯正・定期クリーニング費用の補償
  • 眼鏡・コンタクト補償:数年ごとに一定額を補填するプラン
  • 予防医療・健診パッケージ:基礎保険では限定的な人間ドックや追加検査をカバー
  • メンタルヘルス関連オプション:自己負担軽減や特定カウンセリングの補償(保険会社により有無が異なる)

スイスの補足保険は「任意の民間契約」で、保険会社には契約の自由があります。つまり、健康状態や既往歴によっては、

「申込者の健康状態に応じて、保険会社は補足保険への加入を拒否したり、条件付きで承諾することができる」

とされています(BAG, Zusatzversicherung – Privatrechtliche Krankenversicherung 意訳)。加入が断られたり、既存の持病に関する補償が除外されたりする場合もあります。

スイス移住を考える段階で、

  • 現在の歯科・視力・メンタルヘルスの状態を把握し、必要になりそうな医療を洗い出す
  • 渡航前に日本で可能な治療・歯科ケア・眼鏡作成を済ませ、初期負担を軽減する
  • スイス到着後、早めに補足保険の見積もりを複数社から取り、加入条件と補償範囲を比較する

といったステップを踏めば、「想定外の高額医療費」に直面するリスクをかなり抑えられます。とくに歯科・眼科・メンタルヘルスは、日本との制度差が大きい落とし穴です。事前のリサーチと備えが欠かせません。

スイス旅行・短期滞在中の医療費リスクと海外旅行保険の必要性

スイス旅行・短期滞在中の医療費リスクと海外旅行保険の必要性

スイス移住を本格検討する前に、「下見旅行」や「数週間〜数か月の短期滞在」を計画する人も多いでしょう。この段階で見落とされがちなのが、旅行者・短期滞在者として直面する高額医療費リスクと、それに備える海外旅行保険の重要性です。

スイス旅行中の医療費事故事例:骨折・急病で数十万円の請求も

スイスやオーストリアなどアルプス地域では、スキーやハイキング中の事故、高山病や心疾患で救急搬送されるケースがよくあります。日本国内であれば健康保険が適用されますが、観光で訪れている外国人にはスイスの公的医療保険は適用されず、原則全額自己負担になります。

損保会社の海外旅行保険の支払い実例を見ると、負担の大きさが分かりやすくなります。SBI損保は「スイス・オーストリア旅行での高額医療費事例」として、

「オーストリアのスキー場で転倒し、大腿骨を骨折。現地病院での手術・入院費用、救援者費用等で約250万円の保険金支払いとなったケースがある」

と紹介しています(SBI損保『ヨーロッパ(スイス・オーストリアなど)での高額医療費事例』要約)。

同資料では、

「ヨーロッパの医療費は日本と比べて高額となる傾向があり、救急車の利用や数日の入院であっても数十万円から数百万円規模の請求となることがある」

とも指摘しています(同上 意訳)。スイスの物価や人件費を踏まえると、骨折や急病での入院だけで、日本円換算100万〜200万円超の請求が出ても不思議ではないと考えるべきです。

さらに山岳地域特有のリスクとして、ヘリコプターによる救助・搬送費用があります。スイスの民間レスキュー組織REGAは、救助活動の実費について、

「ヘリコプター出動1回あたりの費用は、出動時間・医療スタッフの有無・夜間かどうか等によって変動するが、数千スイスフランに及ぶことがある」

と説明しています(Rega, Who pays the costs of a mission? 要旨)。1フライトで数十万円の請求になる可能性もあります。

移住前の“お試し滞在”であっても、1度のアクシデントで日本の年収に匹敵する負担が発生するリスクがあると意識しておく必要があります。

海外旅行保険の選び方:スイス向けに必要な補償額の目安

こうしたリスクに対して、日本の公的医療保険だけでは十分に対応できません。厚生労働省の「海外療養費制度」によると、海外で受けた治療に対して日本の健康保険から払い戻しを受けられますが、

「日本国内で同様の治療を受けた場合にかかる費用を基準として算定した額が支給対象であり、実際に海外で支払った額の全額が払い戻されるわけではない」

とされています(厚生労働省『海外療養費の支給について』要約)。スイスの医療費水準を考えると、自己負担がかなり残ると想定すべきです。実質的には、民間の海外旅行保険への加入が前提と考える方が安全です。

スイス向けにどの程度の補償額が必要かについて、SBI損保はヨーロッパ旅行の注意点として、

「医療費用の補償額は、数百万円では不十分となるケースもあるため、1,000万円以上のプランを推奨する」

と目安を示しています(SBI損保『ヨーロッパ旅行向け海外旅行保険のポイント』意訳)。

スイスでの短期滞在を想定する場合、ひとつの目安は次のとおりです。

  • 医療費用:最低1,000万円、できれば2,000〜3,000万円
  • 救援者費用(家族の現地渡航・看護等):300〜500万円
  • 疾病死亡・傷害死亡:各1,000万円前後

この水準を確保しておけば、重い事故や病気にも比較的対応しやすくなります。

そのうえで、スイス滞在者向けに特に重要なチェックポイントは次の4点です。

  1. キャッシュレス診療対応病院の有無(大都市・観光地に提携病院があるか)
  2. 救援者費用の範囲(家族何名まで、航空券と宿泊費の扱い)
  3. 山岳救助・ヘリ搬送のカバー有無(オプション扱いの会社もある)
  4. 持病・既往症の扱い(持病の悪化は補償対象外となる契約も多い)

とくに、ハイキングやウインタースポーツを行う場合は、山岳レスキュー費用の補償有無を必ず確認しておきたいところです。

短期滞在者・ワーキングホリデービザ取得者の保険加入義務

単なる観光ではなく、「数か月〜1年のスイス滞在」を予定する場合、ビザの種類によっては保険加入が法的義務となります。

スイス連邦公衆衛生局(BAG)は、居住許可を持つ人の医療保険について、

「スイスに居住するすべての人は、原則として到着後3か月以内に公的医療保険(Grundversicherung)へ加入しなければならない」

と定めています(BAG, Krankenversicherung – Versicherungspflicht 意訳)。この「居住する人」には、一定期間以上滞在する留学生やワーキングホリデービザ保持者も含まれると考えるのが原則です。

ただし一部州では、外国人留学生やワーホリ参加者について、

「本国または民間の保険会社が提供する、スイスの医療水準と同等の補償内容を持つ保険に加入している場合、スイスの公的医療保険の加入義務が免除される」

といった免除規定を設けているケースもあります(BAG, Befreiung von der Versicherungspflicht 要旨)。

したがって、日本で加入する長期滞在向け海外旅行保険や留学保険が、スイス当局の条件を満たすかどうかを、

  • 渡航先カントンの保険担当窓口
  • ワーキングホリデー・留学の受け入れ機関

に事前確認しておくことが重要です。

日本とスイスのワーキングホリデー制度について、在スイス日本国大使館は、

「ワーキングホリデービザ申請に際しては、滞在期間をカバーする十分な医療保険への加入が必要」

と案内しています(在スイス日本国大使館『スイス・ワーキングホリデー制度の概要』要約)。ビザ取得条件として保険加入が実務上必須であると言えます。

移住前の試験的な長期滞在やワーホリを検討する場合は、

  • 「観光用の短期旅行保険」ではなく、「長期滞在・留学用の保険」か
  • スイスの公的医療保険と同等レベルの補償(入院・通院・出産など)が含まれるか

を軸に判断し、日本とスイス双方の当局・保険会社の条件をすり合わせておくことが望まれます。

スイスの医療・保険制度は居住者と短期滞在者でルールが異なり、旅行者は保護の外に置かれている部分もあります。「移住前の下見だから」と油断せず、旅行時点から医療費リスクを見込んだ保険設計を行うことが、スイス移住プロジェクト全体のリスク管理の第一歩になります。

スイス移住の医療・保険費用を含めた生活費シミュレーション

スイスでは、医療保険は家賃や税金と並ぶ固定費の柱になりやすい支出です。ここでは、都市別・家族構成別におおよその保険料と医療費負担をシミュレーションし、日本の健康保険と比べてどの程度を見込むべきかを整理します。

チューリッヒ・ジュネーブ・ベルン:都市別の月額保険料と医療費の目安

スイス連邦内務省(FDHA)傘下の連邦公衆衛生局(FOPH)は、

「スイス居住者は、スイスに到着してから3か月以内に、連邦健康保険法(LAMal/KVG)に基づく基本医療保険への加入が義務付けられている」

と明記しています(FOPH “Health insurance: obligation to insure” 要約)。居住ビザで長期滞在するなら、原則として加入必須です。

FOPHや各州の案内によれば、フランチャイズを高め(例:CHF 2,500)に設定した基本保険の保険料は、州・年齢・プランにより大きく異なります。移住者が多い主要都市圏での目安は次のとおりです。

  • チューリッヒ州(チューリッヒ市):成人1人あたり約CHF 350〜550/月
  • ジュネーブ州(ジュネーブ市):成人1人あたり約CHF 400〜600/月(全国でも高い部類)
  • ベルン州(ベルン市):成人1人あたり約CHF 320〜500/月

FOPHの保険料比較ツール「Priminfo」は、

「保険料は保険会社、居住州、年齢、フランチャイズ(自己負担額)、保険モデルによって変動する」

と説明しています(FOPH, “Priminfo – Health insurance premium calculator” 要約)。同じ都市でも選び方次第で年間数十万円単位の差が出ると意識しておく必要があります。

医療費の自己負担についても、FOPHは、

「被保険者は、選択したフランチャイズ(例:CHF 300〜2,500)に達するまでの費用を全額負担し、その後は請求額の10%(年間上限:成人CHF 700、子どもCHF 350)を自己負担する」

と定めています(FOPH, “Cost sharing: deductible and co-payment” 要約)。

このルールから、「年間自己負担の理論的上限」は、成人1人あたりフランチャイズ最大額2,500CHF+自己負担上限700CHF=3,200CHF程度と考えられます。

家族構成別(単身・夫婦・子供あり)の年間保険料総額

移住検討者にとって重要なのは、「月々いくらか」だけでなく、1年間に医療・保険で“どこまで”を覚悟するかという上限ラインです。ここでは、保険料レンジの中間値を用いた概算を示します。

1. 単身(成人1人)

  • 想定保険料:CHF 400〜500/月 → 中間値 CHF 450/月
  • 年間保険料:CHF 450 × 12=CHF 5,400/年
  • 年間自己負担上限目安:CHF 700/年(フランチャイズ高め設定を想定)

→ 年間トータルで最大約CHF 6,100(約100万円弱、CHF1=170円換算で約103万円)を医療関連として見込むイメージになります。

2. 夫婦(成人2人)

  • 想定保険料:2人でCHF 800〜1,000/月 → 中間値 CHF 900/月
  • 年間保険料:CHF 900 × 12=CHF 10,800/年
  • 年間自己負担上限目安:CHF 700 ×2人=CHF 1,400/年

→ 年間トータル最大約CHF 12,200(約207万円)を、「フルリスク」時の上限として見込んでおくと安心感があります。

3. 子ども2人を含む4人家族(夫婦+子ども2人)

FOPHは、

「子ども(通常18歳未満)の保険料は、大人より大幅に低く設定される」

と説明しています(FOPH, “Health insurance for children” 要約)。実務的には、

  • 子ども1人あたり:CHF 80〜150/月

が多く、レンジ中間値をCHF 120/月とします。

  • 大人2人:CHF 900/月(前項と同じ)
  • 子ども2人:CHF 120 ×2人=CHF 240/月
  • 世帯合計:CHF 1,140/月
  • 年間保険料:CHF 1,140 ×12=CHF 13,680/年

自己負担上限は、

  • 大人:CHF 700 ×2人=1,400
  • 子ども:CHF 350 ×2人=700
  • 合計:CHF 2,100/年

→ 年間トータル最大約CHF 15,780(約268万円)が、4人家族における医療・保険の「フルリスク上限」の目安です。

日本の健康保険と比較したコストパフォーマンスの評価

負担の重さを実感するには、日本の公的医療保険との比較が分かりやすいでしょう。厚生労働省は、

「日本の公的医療保険は、原則3割負担(小学校入学前は2割、高齢者は所得に応じ2〜3割)で受診できるよう設計されている」

とし(厚生労働省『医療保険制度の概要』要約)、協会けんぽは、

「会社員の保険料は、標準報酬月額に保険料率を乗じた額を労使折半で負担する」

と説明します(全国健康保険協会『健康保険の仕組み』要約)。

年収500万円の会社員(40歳・東京都・協会けんぽ加入)を例にすると、

  • 本人負担の健康保険料:年40万〜45万円程度
  • 医療費の自己負担:原則3割で、高額療養費制度により月ごとの自己負担額に上限

となります。これを、スイス単身者のシミュレーション(年間保険料5,400CHF+自己負担上限700CHF≒約103万円)と比べると、

  • 「年ベースの固定コスト」はスイスの方が2倍強になりやすい
  • 日本は高額療養費制度で重い病気でも自己負担の天井が低く抑えられる

といった構造の違いが見えてきます。

一方で、FOPHは、

「スイスの義務的医療保険は、入院、外来診療、妊娠・出産など幅広い医療サービスをカバーし、全国どこでも同一の給付範囲が保証される」

と説明します(FOPH, “Benefits and coverage in compulsory health insurance” 要約)。給付範囲が法律で厳格に定められ、民間保険会社でも基礎保証が同一である点は、一定の安心材料です。

コストパフォーマンスという観点では、

  • 保険料の安さ・自己負担の少なさ → 日本が有利
  • 全国一律の給付範囲・自由度の高さ → スイスに優位性

というトレードオフがあると言えます。

移住前に準備すべき医療費の緊急予備資金の目安

医療保険は月額保険料だけ見ると高く感じにくいかもしれませんが、「保険料+突然の自己負担」の組み合わせが家計に響きます。スイスの制度上、

「フランチャイズまでは全額自己負担であり、その後も10%のコインシュアランスが必要」

となるため(FOPH, “Cost sharing: deductible and co-payment” 要約)、急な入院や手術が発生した年には、それなりのキャッシュアウトが前提となります。

シミュレーションを踏まえると、移住初年度の「医療関連の緊急予備資金」は、最低でも次の水準を目標にしたいところです。

  • 単身:CHF 3,000〜4,000(約50万〜70万円)
  • 夫婦:CHF 5,000〜6,000(約85万〜100万円)
  • 4人家族(夫婦+子ども2人):CHF 7,000〜8,000(約120万〜140万円)

これは、

  1. 高フランチャイズを設定して保険料を抑えた場合の「最初の自己負担ゾーン」
  2. 1年間に想定外の受診が重なった際の10%自己負担

をカバーするためのバッファを意識した金額です。

さらに、

  • 帰国航空券(日本までの片道分)
  • 日本での一時的な受診・検査費用

なども視野に入れると、医療・保険リスクに備える総合的な緊急資金としては、生活費3〜6か月分+上記金額を目安に確保しておくと、想定外の事態にも対応しやすくなります。

スイスは医療の質が極めて高い一方、保険料と自己負担の両方が家計に重くのしかかる構造です。移住前の段階で、

  • 都市別の保険料水準をPriminfo等で確認し
  • 自身の家族構成に合わせた年間トータルコストと緊急予備資金額を算出しておく

ことが、「暮らしは快適だが医療費だけが不安」という状態を避けるための第一歩になります。

まとめ

スイスの医療・保険は世界最高水準である一方、保険料や自己負担は高く、日本の感覚とは大きく異なります。LAMalによる基礎保険加入は移住者を含む全居住者の義務であり、フランチャイズ設定や補足保険の選び方次第で年間負担額が大きく変わります。

また、歯科や眼科などカバーされにくい分野や、言語・受診フローの違いも無視できません。移住前に制度の仕組みとコストを具体的に把握し、生活費シミュレーションと緊急時資金の準備まで進めておくことが、スイスで安心して暮らすうえで重要な鍵になります。

よくある質問(FAQ)

よくある質問(FAQ)

Q1. スイス移住の際、ビザを取れば自動的に医療保険に入ったことになりますか?

いいえ、自動加入にはなりません。スイスでは、ビザや居住許可とは別に、到着から3か月以内に自分で基礎医療保険(LAMal/KVG)を契約する義務があります。会社経由で一括手続きされる日本の社会保険とは異なり、

  • 保険会社(Krankenkasse)を自分で選ぶ
  • フランチャイズ(年間免責額)や保険モデルも自分で決める

必要があります。期限を過ぎると、州が保険会社を指定し、保険料の遡及請求や割増が発生することもあるため、居住登録後すぐに加入手続きを進めるのが安全です。


Q2. スイスの医療保険料は所得に応じて決まりますか?日本のような「高額療養費制度」はありますか?

スイスの基礎医療保険料は、原則として所得とは無関係の「一人あたり定額」です。金額は、

  • 居住州・郵便番号
  • 年齢区分(大人/若年成人/子ども)
  • フランチャイズ(免責額)
  • 保険モデル(自由選択型・かかりつけ医モデルなど)

で決まり、年収が高いからといって保険料が上がるわけではありません。

一方、日本の「高額療養費制度」に相当する仕組みとして、

  • 年間フランチャイズ(例:300〜2,500CHF)までは全額自己負担
  • その後は医療費の10%(成人は年間最大700CHF)が自己負担

という自己負担の年間上限が法律で定められています。ただし、日本のように「月ごと・所得別」で細かく上限が決まるわけではなく、高フランチャイズを選んでいると年間3,000CHF超の持ち出しも現実的に起こり得ます。

所得が低い世帯向けには、州ごとの保険料補助(Prämienverbilligung)があり、申請により月額保険料の一部が軽減されます。


Q3. 歯科や眼科の費用はどこまで基礎保険でカバーされますか?追加の民間保険は必要でしょうか?

スイスの基礎医療保険(LAMal)は、成人の歯科治療・眼鏡・コンタクトレンズ費用を原則カバーしません。例外的に、

  • 重い全身疾患が原因の歯科治療
  • 治療しないと重大な全身疾患につながる特定の歯科処置
  • 子どもの視力矯正(年間一定額まで)

など、ごく限られたケースのみが対象です。

そのため長期在住者の多くは、民間の補足保険(Zahnzusatzversicherung など)で次のようなリスクに備えています。

  • 虫歯・歯周病治療、歯科矯正
  • 定期クリーニング
  • 眼鏡・コンタクトの購入費用の一部

ただし、補足保険は健康状態によって加入を断られたり、持病部分が免責になったりすることがあります。移住直後の健康なうちに検査・見積もりを取り、必要なら早めに加入を検討するのが現実的です。


Q4. メンタルヘルスの診療(うつ病・不安障害など)は基礎保険でカバーされますか?言葉の問題が心配です。

うつ病や不安障害などの精神科・メンタルヘルス診療は、基礎医療保険の重要なカバー領域です。

  • 精神科医への受診:他科と同様に基礎保険の対象
  • 認定臨床心理士による心理療法:医師(家庭医・精神科医)の指示書があれば保険対象(回数・期間に制限あり)

一方で、完全な自由診療のカウンセリングやコーチングなどは保険適用外となることが多く、全額自己負担です。

言語面については、都市部の大学病院やクリニックでは英語対応の精神科医・心理士もいますが、

  • 予約待ちが長い
  • 地方では英語対応が限られる

といった課題があります。対策としては、

  • 早めにハウスアルツト(家庭医)を登録し、メンタル不調も相談できる関係をつくる
  • 日本大使館や在留邦人コミュニティがまとめている「日本語/英語対応医療機関リスト」を確認
  • 必要に応じて、州が用意するコミュニティ通訳や民間医療通訳サービスを利用

といった準備を、元気なうちから進めておくのが有効です。


Q5. 短期滞在や旅行の場合も、スイスの公的医療保険に入らないといけませんか?海外旅行保険はどの程度必要でしょうか?

観光や数週間程度の短期滞在であれば、スイスの公的医療保険(LAMal)の加入義務はなく、加入もできません。その代わり、医療費は原則すべて自費となるため、日本での海外旅行保険加入がほぼ必須です。

医療費水準が高いスイスでは、

  • 骨折での手術+数日入院 → 日本円で100万〜数百万円
  • 山岳ヘリ救助 → 1回あたり数十万円規模

といった請求が現実的に起こり得ます。目安としては、

  • 医療費用:最低1,000万円、可能なら2,000〜3,000万円
  • 救援者費用:数百万円
  • 山岳救助・ヘリ搬送:補償対象かどうか

を満たすプランを検討すると安心度が高まります。

一方、数か月〜1年程度の長期滞在(留学・ワーホリ等)の場合は、ビザや滞在形態によって、

  • スイスの公的医療保険への加入義務
  • もしくは「スイスと同等水準の民間保険」に加入していれば免除

といった条件が変わります。事前に、

  • 居住予定カントンの保険担当窓口
  • ビザ申請時の案内

で「どの保険形態なら要件を満たすか」を必ず確認し、ビザ条件と医療・保険の要件をセットで設計することが重要です。


Q6. 日本の健康保険や国民健康保険は、スイス移住のときどう整理すればいいですか?二重払いになりませんか?

スイスの公的医療保険に加入する場合、日本の公的医療保険と重複加入・二重負担にならないよう整理が必要です。

  • 会社員(被用者保険):退職すると翌日から資格喪失となります。退職時に健康保険証を返却すればOKです。任意継続も選択できますが、スイスでLAMalに入るなら、医療部分は基本的にダブりになります。
  • 自営業・フリーランス(国民健康保険):日本で転出届を提出し、住民票を国外転出にすると、その日をもって国民健康保険資格を喪失します。役所で転出届と同時に保険証を返却すれば脱退完了です。

日本の年金については、日・スイス社会保障協定により、

  • 日本からの「期限付き駐在員」→ 一定条件下で日本側年金のみ加入(スイス側免除)
  • 現地採用・個人移住 → スイスの年金制度への加入が原則、日本の厚生年金は対象外

といった整理になります。医療保険とは別枠なので、「健康保険の整理」と「年金・社会保障協定の確認」を並行して行うことをおすすめします。


Q7. スイスで医療費を抑えるために、移住前からできる準備はありますか?

あります。とくに日本との制度差が大きい分野については、渡航前の準備で後々のコストをかなり抑えられます。

具体的には、

  1. 歯科・眼科の先行ケア
  2. 虫歯・歯周病の治療、親知らずの抜歯、歯のクリーニングを日本で済ませる
  3. 眼鏡・コンタクトを予備含め複数本用意しておく

  4. 持病の整理と英文資料の準備

  5. 服薬中の薬一覧・既往歴を英語(できればドイツ語/フランス語)でまとめる
  6. 主治医に紹介状(英語)を書いてもらう

  7. 移住後の保険設計を事前シミュレーション

  8. FOPHのPriminfoやcomparis.chで、居住予定地・年齢・フランチャイズ別に保険料を試算
  9. 年間の医療利用を想定し、「高フランチャイズで保険料を抑える」のか「低フランチャイズでリスクを抑える」のかを検討

  10. 緊急予備資金の確保

  11. 少なくとも、成人1人あたり3,000〜4,000CHF程度の医療用バッファを用意

こうした事前準備により、スイスの「高品質・高コスト」な医療環境を、家計とバランスを取りながら活用しやすくなります。